あるコーチングセッションで、印象に残ったエピソードがあります。
「実は、少し前に上司から「部長にならないか」って声をかけられたんです」
「すごくうれしかったんですけど。。すぐに「でも、家のこともあるので」って答えてしまって。
子どももまだ小さいし、夫の仕事も忙しくて。やっぱり私じゃ無理かなって。」
彼女は決してやる気がないわけではありません。
お話を伺う限り、日頃の仕事ぶりは非常に真摯で、きめ細やか。責任感もあり、周囲からの信頼も厚い存在のようです。
けれど「家庭を優先すべき」「夫の仕事を立てるべき」「私なんかが管理職になるなんておこがましい」
そんな無意識の“べき思考”が、その一歩を引き戻してしまったのです。
ある会社からの依頼を受けて、将来のリーダー候補となる女性社員を対象にコーチングを行っております。
そのセッションを通じて感じるのは、多くの方が「家事や育児を最優先にすべき」「夫は家計を支えているから、夫の仕事を優先すべき」といった、
“女性であるがゆえの思い込み”を無意識に抱えているということです。
もちろん、だからといって仕事に手を抜いているわけではありません。
みなさん非常に真摯で、一生懸命。誠実で、きめ細やかもあり、同年代の男性社員よりも「しっかりしているな」と感じる場面も少なくありません。
しかし一方で、
「今の仕事をしっかりこなすことはできても、リーダーとしてさらに上を目指そう」「自分がもっと影響力を持って、会社や組織を変えていこう」
そんな“ギラギラ感”を自分の中に許せない、そんな空気も感じるのです。
これまでの価値観や「こうあるべき」に縛られて、自分の可能性にフタをしてしまう。
能力もやる気もあるのに、無意識の“べき思考”が自らの成長を妨げてしまっているのだとしたら。
それは本人にとっても、会社にとっても、そして日本社会にとっても、大きな損失ではないでしょうか。
もちろん、「私は今のスタイルで十分。昇進やリーダーシップには興味がない」という選択も尊重されるべきです。
けれど、もし心のどこかで「もっとチャレンジしてみたい」「自分を活かして会社を良くしていきたい」と思う気持ちがあるなら、
一度、ご自身の“べき思考”を見直してみてもいいかもしれません。
意識が変われば、行動が変わります。
そして、あなたの行動が変われば、周囲も変わっていきます。
コーチングの大きな価値は、こうした「内側の変化」が起点になることです。
あなたが自分の“べき”を手放したとき、
もしかしたらパートナーや家族の“べき”も変わり、
これまでよりもっと自由で豊かな人生、家族との関係が築けるかもしれません。
吉川洋之